少人数私募債は銀行など金融機関からの一般的な融資と比べ手続きの簡略さ、社会的評価の向上、比較的ローコストに発行できるなど数々のメリットがありますが不明な点も多く存在します。ここではQ&A形式で少人数私募債についてよくある質問に対してお答えしていきます。

■ Q&A集

Q.

社債は中小企業でも発行できるのですか?

A.

社債発行は中小企業でも発行することができます。金融商品取引法「第二条第3項二号ロ」に勧誘者(社債購入を依頼する方)49名以下の少人数私募債の発行がきちんと認められています。金融機関はバブル崩壊後の不良債権処理などから融資態度を変化させ、金融行政的にも融資先に対する資産査定の厳格化が求められ、その結果、貸し渋り、貸し剥がし、自己査定ルールなどが社会問題になるほどです。中小企業の窮状は切実で、金融機関からの資金調達(間接金融)が難しくなっている会社もあるようです。このような状況下では間接金融と直接金融を併用することが現実的です。金融機関借入とともに少人数私募債も視野に入れながら、計画的に発行する――これが、財務戦略を多様化させ、中小企業の財務管理体制の強化に繋がる方法といえるでしょう。

 

Q.

少人数私募債の1回の発行額は1億円未満と聞きましたが?

A.

少人数私募債には、1回の発行額が1億円未満という規定はありません。発行額は発行会社の信用力や資金使途、償還返済能力によって決まってきます。

 

Q.

あるサイトに「発行累計額は2年間で1億円が限度」と書いてありましたが?

A.

一般に2年間で1億円の金額通算ルールといわれているものは募集(公募)債に適用されるもので少人数私募債は該当しません。ただし、同一種類(償還期限および利率が同じ)の少人数私募債を勧誘する場合、6ケ月間49名以下という6ケ月通算ルールには留意してください。なお、金融商品取引法施行令により、転売制限などを満たしていれば、適格機関投資家を除外して6ケ月間49名で計算することになります。

 

Q.

「49名以下」という勧誘者の人数は絶対変えられないのですか?

A.

金融商品取引法には人数基準ともいうべきルールがあって、50名以上は募集(公募)債、49人以下が私募債となっています。50名以上の募集(公募)債になると、監査法人が作成した有価証券届出書の提出が義務付けられており、かなりコストがかかります。しかし、近年、短いサイクルでより多くの資金を調達するために「公募」「私募」の境界線を見なおし、私募の世界を適正化しようとする動きが出てきています。

Q.

少人数私募債の購入依頼先は縁故者、自社役職員に限定されるのですか?

A.

金融商品取引法には縁故者限定の直接規定はありませんが、経営情報を開示することが望まれることから、守秘義務を遵守できる社長を中心とした縁故者に依頼するケースが多く、それが定着したようです。社長が信頼できる人と認めれば、縁故関係者でない方にも勧誘することができます。ホームページなどで縁故関係者に限定という記載が見られますが正確ではありません。

 

Q.

一部購入依頼先に金融機関等のプロが入ってはいけないのですか?

A.

金融のプロ(金融商品取引法では適格機関投資家と記載)が入っても差し支えありません。ただし金融のプロが入ると、書類の作成や購入申請手続き、決済に時間がかかり機動的に動けないことが予想されます。また金融情勢によって低利債から高利債への借換え要請が出たり、発行会社が高利債を低利債に借換えをお願いする場合に、スムーズに運ばないこともあり得ます。したがって縁故関係者中心の勧誘の方が、社債の発行・管理がしやすいということはいえるでしょう。

Q.

100名の方にお願いし、実際の購入者が49人以下に収まればいいのでしょうか?

A.

よく誤解されるところですが、金融商品取引法上の49名以下の勧誘とは、購入者数ではなく購入依頼活動で接触する人数、すなわち勧誘者数のことです。したがって80〜100名の方にお願いの声をかければ、募集(公募)債になり、有価証券届出書の提出など監査法人のお世話になることになります。

 

Q.

発行の際、煩雑な行政手続きはありますか?

A.

行政機関に提出する書類等はありません。ただ1億円以上の社債を発行する場合は、発行時、期中の勧誘に当たって、金融商品取引法上の扱いとして「有価証券通知書、有価証券届出書は提出していない」「記名式で一括譲渡以外の譲渡が禁止されている」「社債券の券面が50枚未満であり、表示単位未満に分割できない」ことを告知する必要はあります。しかし、これも募集要項に書いておけばよいことで、煩雑な手続きはないといっていいでしょう。

 

Q.

「同一種類の少人数私募債」の意味を教えて下さい。

A.

金融商品取引法第二条第3項二号ロに規定する定義に関する内閣府令(定義府令第十二条の規定)によりますと、発行会社が同じで「償還期限及び利率」が同一であることとされています。要するに、償還期限と利率の両方が同じということになります。

 

Q.

償還期限に一括償還すればよいということですが、資金繰上全額安定して使えるのですか?

A.

一面ではその通りですが、一括償還にもリスクがありますので、金融機関からの借入と対比させながら説明してみましょう。
(1)少人数私募債は間接金融の長期借入金に当たります。比較すると、少人数私募債は長期借入金のような毎月または3ケ月毎の分割元利金の支払いがなく、一般的に利払いは年1回の後払い、元本は最終期限に一括償還するケースが多く、歩積み両建て的歩要素もなく、準自己資本として安定した資金繰りになります。ただし、期限に一括償還する場合、事前に償還に備えた「減債基金」を積立てておく必要があります(預金または公社債)。理想をいえば発行期間5年、総額数千万円を発行した場合、元本1千万円について毎月15万円または12万円積立てておくと安心です。元本との差額は、少人数私募債の投資によって増加する収益で返済するという考えです。

<15万円の場合>

15万円×12(ケ月)×5(年)=900万円となり元本1000万円との差額100万円。

<12万円の場合>

12万円×12(ケ月)×5(年)=720万円となり元本1000万円との差額280万円。

(2)長期借入金は返済期日に遅れると遅延損害金が発生し、金融機関の心証を悪くするだけでなく、要注意債権になりかねません。対して減債基金は余裕のある時は多めに積立てるなど、期限にとらわれず弾力的に取扱え、心理的にもはるかに楽です。
(3)社債の償還には、満期の期限に返済する「一括償還」と、期中に分割(例えば年1〜2回)して返済する「定時償還」がありますが、少人数私募債は一括償還が多いようです。期限の長い一括償還は、発行会社にとって大きなメリットですが両刃の剣でもあります。減債基金を積立てておかないと延長の借換えを購入者にお願いすることになりかねません。借換えを当然のように説明している向きもありますが、こういう事態はできるだけ避けるべきです。

 

Q.

担保提供、保証人はどうなりますか?

A.

担保権設定契約、保証契約は法律上義務付けられていません。会社と社長の経営手腕などの信用を基盤とし、社債権者と共存共栄を図る制度ですから、それほど問題にならないと思います。言い方を換えれば、経営者の社会的責任が問われており返済責任は重いのです。もちろん担保提供してもかまいませんが「担保付社債信託法」が適用され、煩雑になりますので避けた方が良いでしょう。

 

Q.

社債発行後の経営情報の開示はどのような内容になりますか?

A.

義務付けられてはいませんが、一般的には「四半期毎の合計残高資産表」「資金繰表」「中間・本決算書」などが上げられます。各段階で「事前に提出した事業計画書の進捗状況」「事業に及ぼす重要な事象、リスク」などを説明し、目標数値や実態像を分かりやすくするよう心がける必要があります。少なくとも本決算とその途中の半年間の動向を示す中間決算を定期的に開示し、その要約を説明して下さい。そうすることで信用、信頼の好循環がもたらされると思います。