少人数私募債は銀行など金融機関からの一般的な融資と比べ手続きの簡略さ、社会的評価の向上、比較的ローコストに発行できるなど数々のメリットがあります。ここでは具体的な手続きに必要な書類をご紹介いたします。

■ 取締役会議事録

 事務手続き上、新会社法により重要な事項を決議し、具体的な払込金額、利率などの決定を代表取締役に委任することができます。募集要項、事業計画書に沿って社債発行の趣旨を説明し、十分に話し合いをし、役員間で温度差が無い様に合意を形成し、念のため、社員への周知徹底や情報開示の方法についても詰めておくのがよいでしょう。中小企業の場合には、取締役会といっても親族の方々がほとんどという会社が多いと思います。反対者が出るとは考えにくいので、取締役会はスムーズに進行するのではないでしょうか。しかし、せっかく取締役会を開くのですから、それだけで終わるのは少しもったいない気がします。会社、経営のことなど、普段思っていることを役員同士で話し合う絶好の機会でもあります。議決の後はフリートーキングという形で、今後の方針や戦略など会社を繁栄させるためにどうしたらいいか、いろいろ議論してみるのもよいのではないかと思います。なお決議内容は、取締役会議事録として規定に従い保存しておきます。話し合いの内容を詳しく書く必要はありませんが、主要な質問、発言内容の趣旨はきちんと記録して下さい。

■ 社債発行趣意書

 社債発行趣意書は、なぜ少人数私募債を発行するのか、その目的、具体的な使途は何なのかということを簡潔に要約して、理解と協力をお願いする依頼状です。いわば社債購入に関わる勧誘活動全体の挨拶文のようなものですから、事業計画書と募集要項に添えて購入依頼者のもとに持参します。社債発行趣意書は書式が固定されているわけではありませんから、工夫次第ではメッセージ性のある訴求力の高い斬新なものができる可能性があります。ケースによっては社債発行趣意書を省略しても問題ありません。

■ 募集要項(発行要項)

  募集要項は、募集総額、一口金額、利率、償還年限など、発行する社債の具体的な内容、約束ごとをまとめた書類で、この書類で賛同協力者(購入者)を勧誘します。募集要項は、書式がほぼ定着していますので、比較的容易に作成できますが、この書類で大事なのは事前の準備です。
  順序としては、まず募集総額をいくらにするか、事業計画書の資金調達計画に従い決定します。適当に決めるのではなく、どの方面にいくら必要なのかを詳細に検討して決定する必要があります。なぜなら設備投資資金がいくらで、運転資金がいくらと使途を明確にし、堅実な財務内容を前提とした調達金額を決めておかないと、購入依頼者から「このお金の使い道は」と尋ねられたときに、何も答えられなくなってしまうからです。
  このように原則として、事業計画書の資金調達計画で社債募集総額を決定しますが、一方で、最終的に集まった額を社債募集総額とするといった弾力性を持たせることも必要です。そのため、社債の応募総額が募集要項に記載した社債募集総額を超過した場合、または下回る場合でも社債を成立させることを、あらかじめ要項に表示しておかなければなりません。また金融商品取引法上の取扱いとして、有価証券通知書、有価証券届出書は提出していないことも記載しておきます。さらに少人数私募債は、譲渡制限や表示単位未満の券面分割制限が課せられていることを告知する義務があります。勧誘時にこれらの制限を相手方に告知し、発行した券面上にそのことが記載されていなければなりません。
  次に、いつから勧誘活動を開始するか、発行日は何月何日か、償還期限、利率はいくらにするといったことに関しても、社内で綿密に打ち合わせておかなければなりません。発行時期は、社債券を印刷する日数、購入者に現物を引き渡す期日も考慮し設定して下さい。あらかじめ、少人数私募債発行のためのタイムスケジュールをたてておくと、進行状況が一目で分かり便利です。資金使途、償還能力によっては、さらに長期債の発行も可能です。なお、縁故者に勧誘する段階では募集要項ですが、申し込みの内諾を得て社債申込証を交付する時点で発行要項になります。書類の名称が違うだけで、書式も内容も理論的には同一になるはずですが、勧誘中の要望により発行条件が若干変わることもありえます。
※発行期間は、以下のような長さが一般的です。設備資金――中、長期の4〜6年。運転資金――中期で3〜4年。

■ 購入依頼者の決定

 勧誘する人数は49名が上限なので、この枠内で募集総額と見合う人数を決め、購入を依頼する方々の名簿を作成します。購入依頼者には縁故者という規定はありませんが、事業計画書の内容や発行後の経営内容などの情報を開示しても大丈夫な人、守秘義務を遵守する信頼できる人ということになると、どうしても社長および社長の一族、友人、知人、自社役職員、取引先を中心とした縁故者になります。
(1)社長およびその親族関係者
(2)自社株主およびその親族関係者
(3)自社役員および従業員
(4)得意先もしくはその会社の社長
(5)仕入先もしくはその会社の社長
(6)社長の友人・知人
(7)自社の顧問弁護士・公認会計士・税理士など信頼できる立場の人
(8)その他、社長もしくは役員が信頼する人
  名簿ができた段階で、改めてリストに上がった方の守秘義務に対する考え方、あるいは会社経営への協力度合いなどを検討します。堅くいえば適格審査ということですが、実際には上記の項目の基準に合っているかどうか、複数の社員で確認し合うといった感触だと思います。こうした作業を経て、最終的に購入依頼者を決定します。

■ 社債申込証

 社債申込証は、賛同者が購入の意思を正式に伝える書類ですが、会社法が社債申込証主義を採用していますので、法律上も不可欠な書類です。社債申込証主義とは「個々の社債契約は社債申込証によってのみ成立する要式行為である」という立場で社債権者保護の見地からとられています。したがって社債申込証以外の方法による申込みは無効ということになり、社債契約そのものが成立しません。
  社債申込証は内諾を得た方に渡し、氏名、住所、金額等を記入・捺印したものを戻してもらいます。会社法676条に、募集債の記載事項がありますので参考にして下さい。もともとは独立した書類ですが、発行要項と対にして使用しますから、セットで作成すると便利です。
  社債申込証そのものは簡単な書式で、発行要項も募集要項と同じ内容ですから、名称を変えるだけで転用できます。工夫ついでに付け加えますと、募集要項の発行条件が変わることはほとんどありませんので、最初から前述のように社債申込証とセットで発行要項を作成し、これを募集要項として兼用する方法もあります。ただし、この方法を採用するときは、購入予定者に事情を説明し、失礼のないようにして下さい。
  「それなら初めから募集要項は不用だと、説明すべきではないか」と叱られそうですが、募集要項から発行要項への移行は、一般的な社債発行のプロセスとしてはオーソドクスなものです。一応、常識として押さえておいていただきたいと思います。正直いいますと、この方法は実際に勧誘活動を行ってみて、初めて気がついたことなのです。まさにコロンブスの卵でした。
  少人数私募債の対象は、縁故者や親しい方々が中心です。若干の告知義務はありますが、堅苦しい届出の義務はありません。もちろん正規の社債ですから、基本的なルールは遵守しなければなりませんが、これまで述べてきたように工夫次第で改善できることもあります。原則は押さえながら、柔軟な発想で対応するというバランス感覚が、この制度をより豊かなものにすると思います。

■ 社債申込受付票

 応募の受付は、まず購入予定者が社債申込証を発行会社に届け、正式に購入の意思表示をするところから始まります。発行会社は社債申込受付票を渡し、確かに受理したことを伝えます。基本的な事務処理は、銀行や証券会社が売り出している一般の金融商品の受付と変わりませんが、少人数私募債はこちらから購入をお願いしたものです。事務的に間違いなければ、それで良いというものではありません。社債申込証は郵送していただくこともできますが、なるべくなら伺って挨拶をして感謝の気持を表し、直接受け取る方がよく、その際に受付票も持参するのがベストです。

■ 募集決定通知書

 少人数私募債の応募受付が終了したら、直ちに募集決定通知書を購入者に送らなければなりません。こうした書類もあらかじめ作成しておき、すぐ送付できるように準備しておくことが大切です。重要な書類なので書留で送るという方法もありますが、一般的な普通郵便でも別に問題はありません。
  この後、いよいよ払込みをしていただくことになります。忘れている場合もありますので、払込期限が近づいてきたら、賛同へのお礼も含めて連絡するのが確実な方法です。実務体験からいいますと、社債申込証をいただいた後、払込期限まで短期間なので事情を説明し、社債申込受付票と募集決定通知書を省略することもできます。

■ 社債御振込金預り証と社債券印刷交付

 払込期日に入金を確認後、社債御振込金預り証を購入者に渡します。社債御振込金預り証は、文字通り社債の払込金が入金されてから社債券を届けるまでの預り証です。社債券を印刷して現物を渡した後、この預り証の裏面に受領した旨を署名捺印していただき、改めて回収します。この一連のやり取りを郵送で行うことも可能ですが、大事な有価証券ですから、お礼という意味もこめて、1人1人購入者の方々を回り直接手渡しするのが望ましいと思います。少人数私募債は縁故債ですから、支援をしてくれる方は大変ありがたい存在です。この機会に、さらに親交を深められたらいかがでしょうか。
  社債券を印刷すると印紙税が課税されますが、税務署へ納入手続きは有価証券専門の印刷会社の場合は代行してくれます。社債券を印刷しないで、社債原簿(台帳)に記帳するだけの簡便な方法による少人数私募債の発行も現実には行われています。しかし、社債券を印刷、発行する方が、購入者(社債権者)は安心されるようです。100枚以内なら20万円程度の費用ですから、綺麗に印刷した社債券を渡した方がよいと思います。
  またあらかじめ券面に利率を印刷しておき、利札を券面に添付しないという方法もあり、この方法だと利払い後の利札の管理が省略できます。社債券を印刷しないで、社債原簿に記帳する実務処理だけで済ます場合は先に渡してある社債御振込み金預り証を、最終期限まで社債権者に保管してもらい、償還期限に元金を返済した際に回収することになります。準有価証券的なものですから、社債権者には取扱いに十分注意するよう、一言申し添えておくといいでしょう。

■ 社債原簿

 社債原簿の記載事項は、会社法681条に公募債の法定記載事項が例示してありますので参考にして下さい。具体的には、社債権者の「氏名」「住所」「債券発行年月日」「金額」「債券番号」「社債総額」「利率」「償還方法および期限」「利息支払状況」などを記録しておく台帳です。
  発行から償還まで社債管理の基になるものですから、常にこれを見れば把握できる状態にしておかなければなりません。保管も、予備「社債券」や見本「社債券」、回収済みの「社債御振込み金預り証」と同等の扱いをして下さい。